蜃気楼の塔~究明編~ ストーリー
Last-modified: 2016-11-13 (日) 01:33:18
※○○にはユーザー名が入ります。 薄暗くどこか不気味な雰囲気の蜃気楼の塔の内部。 「うぅ~、本当にいつ崩れてしまってもおかしくないくらい壊れています……!」 ナビィの言うとおり、塔の内部は激しく損傷している。 「おそらく、まだ塔が崩落する事はないだろう。クレプシード家の執事……ロイツェが話していた計画が遂行できなくなってしまうからな」 ヴァルキリー様が静かに口にする。 「ロイツェが言っていた『リダン』なる計画、必ず俺たちで阻止しなければならないな」 ジークフリート様の言葉に一同が頷く。その時……。 「あれ?そこに誰かいるのかい?」 この不気味な塔内に似合わない、優しい声が響いた。 「そ、その声……もしかして、ノイシュ……?」 ミディール様がおそるおそる声のした方角を見る。 「ミディール、それにエーディンや他のみんなも…。どうしたんだい?」 エーディン様の言葉にノイシュ様が睫毛を伏せる。 そこまで話すとノイシュ様が懐から何かを取り出した。 「……なるほど。クレプシード家から、か」 言葉は柔らかいが、ノイシュ様の声は怒りとも悲しみとも思える……そんな感情を含んでいた。 「それならノイシュもあたしたちと一緒にこの塔を調べましょ?あたしたちもクレプシード家にお仕置きしなきゃいけないのよ」 ノイシュ様の疑問にナビィが今までの経緯を話す。 「僕がデアドラを探している間にそんな事があったんだね。……それなら、僕も同行させてほしい。デアドラを……この世界を救うために僕にも尽力させてくれないかな?」 ノイシュ様の申し出にジークフリート様とミディール様が賛成する。もちろん、他の皆にも断る理由はあるはずも無かった。 「ありがとう。みんな、よろしくね」 ノイシュ様を加えた○○たちは再び塔の探索を開始したのだった。 「あっ、みなさん見てください!」 ナビィの声に神様たちが駆け寄る。 塔はロイツェの力に阻まれて登り続けても1階に戻されてしまうため、何とかして奥へ進む方法も探していたのだ。 「さすがナビィだ。よし、ナビィには特別に私の新作スイーツを……」 ヴァルキリー様が笑顔で何か不穏な行動をしようとすると、ナビィは慌てて裂け目に向かう。 「こ、ここは危険かもしれませんし、奥に進みましょう~!ヴァルキリー様のお菓子が食べられなくてナビィ残念です~!!」 そんなやり取りの中、裂け目を見つめていたノイシュ様が、祈りにも似たような声で呟く。 「……デアドラ、待っていて。そして、絶対に世界を危機から救ってみせるよ」 ○○と神様たちは、深い闇が手招きしているような黒い裂け目へと飛び込んでいった。 ~これは蜃気楼の塔・頂上到着後の戦いの最中の事……~ ようやく到達した、蜃気楼の塔の頂上。 『おや……お客人方のお力はその程度でございましたか。私がわざわざこの姿でお相手させていただく必要も無かった、という事でございましたな』 以前と違い、若い青年のような姿や声となってあらわれたロイツェ=クレプシード。 「このまま戦闘が長引けば『リダン』の阻止は難しくなるぞ……!」 「大きな歪みを生み出していたものは結構壊せたと思うよ!でも、この空間は小さな力を作用させる時計もたくさんあって……それを見つけたり、罠じゃないか判断するのにはもう少し時間が必要みたい……!」 普段の態度からはあまりわからない強い意志を見せるヤヌス様に、フォルトゥナ様は強く頷くと破壊すべき時計の判断に集中する。 「くっ……、ここまで来たのに、計画を食い止める事はできないのか……!?」 ロイツェの刃を防ぎながらノイシュ様が焦りを滲ませながら言ったその時だった。 「どうやらギリギリで間に合ったようね」 いち早く後方からの声に反応したミディール様の声に一行が後ろを振り向けば、オイフェ様、マナナン・マクリル様、リル様がこちらへ駆けつけてくる様子が見えた。そして、後ろにはオスカー様の姿もあった。 「オスカー……!無事で、安心した……」 オイフェ様やオスカー様たちは魔物の掃討を終え、こちらへ向かってくれていたのだ。だが……。 「スカサハ師匠はどうしたんだ?お前らと一緒に残ったよな?」 オイフェ様の言葉にクーフーリン様は、スカサハ様への心配が強まったようだ。スカサハ様の実力はよくわかってはいるものの、この塔ではぐれたとなれば、嫌な予感もよぎるのは当然だった。 「クーフーリン……スカサハなら、きっと大丈夫……。信じよう……?」 『ふむ……。ナイトシアお嬢様がお力を貸したとのお話は伺いましたが……生き残り、ここまでいらっしゃいました事、大変素晴らしく思います。この刃も貴方がたを早く刻みたいと歓喜に震えているようでございますゆえ……』 ロイツェが刃を構えなおすと同時に響く威厳のある笑い声。その声は部屋の階段の上からだった。 「オヤジ……!それにヴィーザルたちも無事だったのか」 ヴァーリ様が先程コメトンとの戦いで別れたオーディン様たちの姿を目にし、少しの安堵を見せるが、ロイツェの冷たい声が響き渡る……。 『……貴方様は今、この戦いの最中に安心をされたようにお見受けしましたが……本当に目に映るもの全てが真実なのでしょうか?』 ロイツェの不穏な発言にヴァーリ様だけでなく、他の神様たちにも戸惑いが広がる。 「こんな時に謎かけ?あなたの事だから何か意味がありそうだけど」 エーディン様の言葉にロイツェは答えを出そうとはしない。こちらがその意味を理解し、見つけるしかなさそうだが……。 「まさか、オヤジたちが本物ではない、とでも……」 ヴァーリ様がぽつりと言った言葉に皆が驚くが、否定もできないような状況でもあった。 「待って、ヴァーリ。私たちは本物だよ。……ヘズ?」 シヴ様の言葉に少しはぎれの悪い返事をするヘズ様。 「兄貴はオレの事だけじゃなくて、他の皆も疑うんだ?オヤジとか……ヘズとかさ?」 階段を降りてきたヴィーザル様に、オーディン様だけでなくヘズ様の名前も挙げられたヴァーリ様はどう返答すべきか悩んでいるようだ。 「兄貴らしくないなー、そういう顔。それに、いつからそんなに騙されやすくなったんだよ?」 階段の上、オーディン様たちの後ろから聞こえた声。視線を上げればそこにはヴィーザル様がもうひとりいた。 「おぉ!?ヴィーザルがもうひとり来おったわい!」 オーディン様やトール様だけでなく、その場の全員が困惑する中、もうひとりのヴィーザル様が駆け出す。 「今のヴィーザルは偽者……まさか幻影、だったのか?」 ジークフリート様の言葉に冷たく静かに微笑むロイツェに、みんなが困惑する。仲間だと思っていた人物の中に幻影がいたのだ。不安や戸惑いが生じてしまうのは自然な事だった。 「……やっぱりその気配、幻影だったんだね。僕がもっと早く違和感に気がつけばよかったんだけど……」 こちらへと合流してきたオーディン様たちによれば、どうやら途中で出会い、鍵を渡してくれたり共に戦ってくれたヴィーザル様は幻影だったようだ……。 「お前が本物という事は、私は幻影のお前に助けられたという事か。たしかに普段のお前と少し様子が違うような気もしていたが……」 ヴィーザル様の真意は本物でも幻影でもヴァーリ様には理解しかねるものだったが、この場においては本物のヴィーザル様も加勢してくれるようだ。 『さて、貴方の隣にいるその神は、誠にご本人様なのでしょうか。もしや幻影かもしれませんゆえ、ご注意を……』 不安をあおるような言葉を放つロイツェは、一行が未だにヴィーザル様の一件で困惑している中、再び追撃の構えを見せる。今の状況で攻撃されるのは連携の上でも危険だ……! 「そんな言葉で惑わされたり、仲間を疑うようじゃまだまだだね、アンタたち!」 クーフーリン様が声を上げれば、スカサハ様が部屋に姿をあらわしていた。だが、本当にスカサハ様なのかという不安は拭いきれない。 「あんた、本物のスカサハよね?あたしたちと塔の途中で合流したけど……」 スカサハ様の言葉に、また幻影が紛れ込んでいた事を知る。一体誰が本物なのか、不安は広がるばかりだが……。 「みんな、その気配は幻影じゃない……。判断は難しいけど、少しコツを掴んだから、大丈夫だよ」 途中加勢をしてくれたヌアダ様たちもあれから会ってはいない。目的も明かしてはくれなかった彼らも本物だったのか少し怪しくなる。 「安心しろ!私たちは本物だぞ!」 明るい声と共に部屋にやってきたのは、まさに噂をしていた4人……ヌアダ様、ネヴィン様、ディアン・ケヒト様、ルーグ様だった。 「あなたたちに会うまでに、僕たち自身の幻影は倒しておきましたよ。安心できるかはわかりませんけど」 ヘズ様によれば、ここにいるヌアダ様たちは幻影ではなく本物のようだ。ヌアダ様の言う通り、あの時加勢してくれたのは本物だったのか幻影だったのかは、もう確認する事は叶わないが……。 『なるほど……。皆様お揃いならば、こちらも相応のおもてなしをさせていただかねばなりません……』 ロイツェの言葉と共に、目の前の空間に亀裂が生じる。そこからあらわれたのは、これまで戦い倒してきたクレプシード家の者たちだった……! 『キャハハハ!今度はスヴェイとも遊ボウヨー!』 姿をあらわしたクレプシード家の者たちの中で、ヘレグはゼウス様やヘルメス様を見る。だが、二人ともこの状況に動じる様子はなく、むしろどちらも笑ってみせた。 「情報収集は得意なほうだからね、ゼウスさんの頼まれ事のために飛び回ってただけだよ。まぁ、時空に関する事だったからその辺りに詳しいヤヌスも巻き込んだけどなー!」 ゼウス様とヘルメス様の言葉を聞いたヤヌス様は、部屋の中の時計を調べながらぽつりと呟く。 「……まったく、まさかヘルメスたちに巻き込まれるとはね。でも僕もこんな時まで傍観してるだけのつもりはなかったから、今回は少し本気を出そうかな」 ヤヌス様はその言葉と共に、見つけ出した時計を自身の手で破壊したのだった。 「世界の異変……みんな色々感じ取ってここに来たみたいですが、どのような様子になっているのですか?」 ゼウス様にノイシュ様が問いかける。世界の様子がおかしい事に気付き、この蜃気楼の塔へやってきた者も多いが、どんどん状況は悪化しているようだった。 『ノイシュ様は塔の外の世界の様子が気になると……?では、我々が見せて差し上げましょう』 ロイツェはそう言うと同時に、塔の壁の亀裂へと刃を次々と投げる。突き刺さった刃は亀裂を簡単に崩していった。 「なるほど……こんな事態になっていたんだな。早く塔の影響の拡大を止めなければ……!」 ヴァルキリー様が焦りの声を上げたときだった。天井からパラパラという嫌な音が聞こえる。この音は少し前、フォルトゥナ様と合流した際にも耳にした音だ……! 「……!みんな、天井が崩れてきているわ!早くこっちへ!」 オイフェ様とマナナン・マクリル様が崩落する天井から身を守る魔法陣を素早く展開する。近くにいた者はその陣の中へと駆け込んだ。 「僕たちのいる場所からでは魔方陣の場所へ行くのは危険だね。そこの部屋の隅なら崩落に巻き込まれないだろうから急ごう!」 オイフェ様たちのいる場所から離れた場所に立っていたノイシュ様やオスカー様たちは、部屋の隅の天井がまだ脆くなっていない事に気がつき、その場所まで走った。 「この程度の崩落、私のショコラガンで……」 ネヴィン様は天井に向けてショコラガンを構えていたが、ヌアダ様たちにも説得されると、渋々了承した。 「きゃあっ!」 みんなが避難できる場所まで走る中、短い悲鳴が聞こえる。その方向には、崩落の危険のため飛ばずに床を走っていたナビィが転倒している姿があった。 「ちょっと、まずいわ!あのままじゃナビィが……!」 グラーニア様の焦る声に、ノイシュ様が駆け出そうとした時だった。 「ナビィ、今行きますわ!」 デアドラ様はノイシュ様の制止を振り切って、崩れ落ちる天井の砕片を素手で薙ぎ払いながら走る。 「デ、デアドラ様!ナビィのことは気にしないで早く戻ってください!ここは危険なので……!」 ナビィはそう叫ぶと、頭上に落ちてくる天井の一部を見て思わず目をつむる。しかし、それはナビィに当たる前に砕け散った。 「ナビィ、お怪我はありませんこと?」 デアドラ様はそう言ってナビィを崩落の危険がなさそうな場所へそっと降ろした。相変わらず大胆ではあるが、デアドラ様は数々の危険を皆で乗り越えた事で成長したのだった。 「デアドラ様、ありがとうございます……!」 デアドラ様は笑顔でナビィを見ると、ボロボロに引き千切れてしまったドレスの袖から白い腕を覗かせガッツポーズとウィンクをしてみせた。 「デアドラもナビィも怪我はないかい?」 ノイシュ様やエーディン様がデアドラ様とナビィの様子を見て安堵するが、その間を割るようにデアドラ様に声をかけた神様がひとりいた。 「デアドラ、なかなかかっこよかったじゃないか!……むぅ、私もナビィをかっこよく助けたかったが、君の働きでナビィは無事だったからな!さすがだぞ!」 笑顔で元気よく言ったデアドラ様は一呼吸おくと、凛とした表情でクレプシード家のほうへと向き直る。 「さあ、あなた方、今度こそ覚悟はよろしくて?」 「ここには僕たちもいる。誰しもひとりで戦っているわけじゃない!」 ノイシュ様が素早く駆け出すと、ロイツェに向かって剣技を繰り出す。それを見たクレプシード家も動き出すが……。 「ノイシュの邪魔はさせませんことよ!ぬぅん!!」 デアドラ様はノイシュ様のもとへ駆け寄ると、コメトンの繰り出した一撃を片手で受け止め、反撃に出る。武術の心得のないデアドラ様だが、コメトンをうならせる一撃を放った。 『まったく、貴方がたは往生際の悪いお客人だ……。旦那様の邪魔はこれ以上させませんゆえ……一気に消して差し上げましょう……!』 ヴァルキリー様の掛け声で他の神様も駆け出す。 |