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蜃気楼の塔~究明編~ ストーリー

Last-modified: 2016-11-13 (日) 01:33:18

蜃気楼の塔 内部.jpg

※○○にはユーザー名が入ります。

薄暗くどこか不気味な雰囲気の蜃気楼の塔の内部。
○○と神様たちは慎重に探索を続けていた。

「うぅ~、本当にいつ崩れてしまってもおかしくないくらい壊れています……!」

ナビィの言うとおり、塔の内部は激しく損傷している。
壁の亀裂からパラパラと落ちる何かの破片、歩けば不穏に軋む崩れかけの床や階段…どれをとっても損傷の酷さを実感させるには十分だった。

「おそらく、まだ塔が崩落する事はないだろう。クレプシード家の執事……ロイツェが話していた計画が遂行できなくなってしまうからな」

ヴァルキリー様が静かに口にする。
ロイツェ=クレプシード……。
今回、蜃気楼の塔を探索している最中に新たに出会ったクレプシード家の者だ。
ロイツェによれば、蜃気楼の塔の損傷はクレプシード家にとって深刻な事態であり『リダン』なる修復作業……塔のリフォームを計画しているらしい。
そして『リダン』が遂行される時、蜃気楼の塔や世界にどのような変化や影響が生じるのか……それは未だ不明なままだ。

「ロイツェが言っていた『リダン』なる計画、必ず俺たちで阻止しなければならないな」

ジークフリート様の言葉に一同が頷く。その時……。

「あれ?そこに誰かいるのかい?」

この不気味な塔内に似合わない、優しい声が響いた。


「そ、その声……もしかして、ノイシュ……?」

ミディール様がおそるおそる声のした方角を見る。
すると、暗がりからゆっくりとノイシュ様が姿を現した。

「ミディール、それにエーディンや他のみんなも…。どうしたんだい?」
「あなたこそこんな場所でどうしたの?それに…デアドラがいないわね」

エーディン様の言葉にノイシュ様が睫毛を伏せる。
デアドラ様は城で育ったお嬢様だが、お転婆なところがありよく城を抜け出してはノイシュ様に会いに行ったり、戦場以外の場所に同行したりしている。
ここも危険地帯ではあるが、デアドラ様ならノイシュ様の制止を振り切ってついて来そうなものだ。
「うん。少し前からデアドラの姿が見えなくてね。騎士団でも情報を集めてもらっていたんだけれども、なかなか有力な手がかりは無かったんだ」

そこまで話すとノイシュ様が懐から何かを取り出した。
どうやらそれは手紙のようだった。
上質な封筒は赤い蝋で封が施されており、中の便箋も美しい柄が繊細に描かれている。
だが、差出人は……。

「……なるほど。クレプシード家から、か」
「先日、これが僕の枕元に置いてあってね。どうやらクレプシード家がデアドラを……。僕が早く助けてあげないと、ね」

言葉は柔らかいが、ノイシュ様の声は怒りとも悲しみとも思える……そんな感情を含んでいた。

「それならノイシュもあたしたちと一緒にこの塔を調べましょ?あたしたちもクレプシード家にお仕置きしなきゃいけないのよ」
「……お仕置き?それはどういう事だい?」

ノイシュ様の疑問にナビィが今までの経緯を話す。
ナビィの話をゆっくり頷きながら聞いていたノイシュ様は、一度瞳を閉じて口を開いた。
その瞳には彼の強い意志が宿っていた。

「僕がデアドラを探している間にそんな事があったんだね。……それなら、僕も同行させてほしい。デアドラを……この世界を救うために僕にも尽力させてくれないかな?」
「俺には断る理由もないし、戦力は多いほうがいいだろう。他の皆はどうだ?」
「ぼ、僕もノイシュが一緒に来てくれたら心強いし……それに、一緒ならデアドラも、きっと見つかると思うから……!」

ノイシュ様の申し出にジークフリート様とミディール様が賛成する。もちろん、他の皆にも断る理由はあるはずも無かった。

「ありがとう。みんな、よろしくね」

ノイシュ様を加えた○○たちは再び塔の探索を開始したのだった。


「あっ、みなさん見てください!」

ナビィの声に神様たちが駆け寄る。
そこにはいつも目にするあの黒い裂け目がゆらりと存在していた。
塔の損傷の影響だろうか、その裂け目はいつもより幾分か不安定に見える。
「ナビィ、すごいじゃない!これで先に進めるかもしれないわね」

塔はロイツェの力に阻まれて登り続けても1階に戻されてしまうため、何とかして奥へ進む方法も探していたのだ。
エーディン様に褒められてナビィは嬉しそうに笑っていたが……。

「さすがナビィだ。よし、ナビィには特別に私の新作スイーツを……」

ヴァルキリー様が笑顔で何か不穏な行動をしようとすると、ナビィは慌てて裂け目に向かう。

「こ、ここは危険かもしれませんし、奥に進みましょう~!ヴァルキリー様のお菓子が食べられなくてナビィ残念です~!!」
「なるほど。では、あとで休憩する時にでも……」

そんなやり取りの中、裂け目を見つめていたノイシュ様が、祈りにも似たような声で呟く。

「……デアドラ、待っていて。そして、絶対に世界を危機から救ってみせるよ」

○○と神様たちは、深い闇が手招きしているような黒い裂け目へと飛び込んでいった。
蜃気楼の塔の『リダン』を阻止し、デアドラ様を救出するために。
そして、蜃気楼の塔の謎を解き明かすために。
強き意志のもと、蜃気楼の塔を舞台に神様とクレプシード家の者たちとの、壮絶な戦端の幕が切って落とされた……!


~これは蜃気楼の塔・頂上到着後の戦いの最中の事……~

ようやく到達した、蜃気楼の塔の頂上。
『リダン』を阻止すべく、数多の困難を乗り越えてきた神様たちであったが、頂上で待ち構えていた者と新たな問題の前に苦戦を強いられていた。
崩れかけた劇場のような空間の中心では刃を交える音が響き渡り、皆の疲弊は確実に増していっていた。
早く目の前の人物を倒し『リダン』を阻止しなければ……その焦燥感が神様たちに重くのしかかる。

『おや……お客人方のお力はその程度でございましたか。私がわざわざこの姿でお相手させていただく必要も無かった、という事でございましたな』

以前と違い、若い青年のような姿や声となってあらわれたロイツェ=クレプシード。
その実力は姿を変えたからなのか、それとも元から力を温存してこちらの力がどれほどか、はかっていたのか……
得物である鋭利な刃から繰り出すおそろしい攻撃の嵐と、こちらの想像を超える素早い身のこなしはまさに驚異的だ。
そもそも、ロイツェと刃を交える者と『リダン』を行うための力を発生させている時計の破壊を行う者……二手に分かれている状態であるのも、力量的も精神的にも不利となる要因だった。

「このまま戦闘が長引けば『リダン』の阻止は難しくなるぞ……!」
「あいつ、これだけ攻撃しても全然効いてないみてぇだ……!」
「フォルトゥナ、ヤヌス!時計の破壊はあとどのくらいだ?」
オグマ様やクーフーリン様がロイツェの攻撃を防ぎながら漏らすと、ヴァルキリー様は時計の破壊に回っているフォルtゥナ様とヤヌス様へ声をかける。

「大きな歪みを生み出していたものは結構壊せたと思うよ!でも、この空間は小さな力を作用させる時計もたくさんあって……それを見つけたり、罠じゃないか判断するのにはもう少し時間が必要みたい……!」
「たしかに判断には時間が掛かるけど、ヴァルキリーたちが気にしている通り、時間はかなりなくなってきているみたいだね。……でも僕も時空を管理する者として、あまり好き勝手されたくないんだ。諦めるつもりはないよ」
「ヤヌス……!うん、アタシも諦めないよ!」

普段の態度からはあまりわからない強い意志を見せるヤヌス様に、フォルトゥナ様は強く頷くと破壊すべき時計の判断に集中する。
しかし、部屋に設置された『リダン』へのタイムリミットを示す燭台に灯る火は、あとわずかしか残されていない……!

「くっ……、ここまで来たのに、計画を食い止める事はできないのか……!?」

ロイツェの刃を防ぎながらノイシュ様が焦りを滲ませながら言ったその時だった。

「どうやらギリギリで間に合ったようね」
「おうよ!ここからが本番ってヤツだ!」
「そういう事だぜ!ミディール、大丈夫か?」
「その声……マクリルたち……?ぶ、無事だったんだ……!」

いち早く後方からの声に反応したミディール様の声に一行が後ろを振り向けば、オイフェ様、マナナン・マクリル様、リル様がこちらへ駆けつけてくる様子が見えた。そして、後ろにはオスカー様の姿もあった。

「オスカー……!無事で、安心した……」
「必ず合流するって約束したからな!お前も無事でよかったぜ、ディルムッド!」

オイフェ様やオスカー様たちは魔物の掃討を終え、こちらへ向かってくれていたのだ。だが……。


「スカサハ師匠はどうしたんだ?お前らと一緒に残ったよな?」
「スカサハは途中まで一緒だったんだけど、はぐれてしまったの。彼女の事だから無事だと思うけど……」

オイフェ様の言葉にクーフーリン様は、スカサハ様への心配が強まったようだ。スカサハ様の実力はよくわかってはいるものの、この塔ではぐれたとなれば、嫌な予感もよぎるのは当然だった。

「クーフーリン……スカサハなら、きっと大丈夫……。信じよう……?」
「あ、ああ……。そうだよな。……ありがとうな、モリガン」

『ふむ……。ナイトシアお嬢様がお力を貸したとのお話は伺いましたが……生き残り、ここまでいらっしゃいました事、大変素晴らしく思います。この刃も貴方がたを早く刻みたいと歓喜に震えているようでございますゆえ……』
「それはアドレナリンが沸騰するようなスタイリッシュな口上じゃのぉ!これはワシらもフィーバーせねばな!フハハハハ!」

ロイツェが刃を構えなおすと同時に響く威厳のある笑い声。その声は部屋の階段の上からだった。

「オヤジ……!それにヴィーザルたちも無事だったのか」
「あはは!オレが簡単にやられるわけないだろ?兄貴がそんなにオレを心配してくれるなんてなー」

ヴァーリ様が先程コメトンとの戦いで別れたオーディン様たちの姿を目にし、少しの安堵を見せるが、ロイツェの冷たい声が響き渡る……。

『……貴方様は今、この戦いの最中に安心をされたようにお見受けしましたが……本当に目に映るもの全てが真実なのでしょうか?』
「……なんだと?」

ロイツェの不穏な発言にヴァーリ様だけでなく、他の神様たちにも戸惑いが広がる。

「こんな時に謎かけ?あなたの事だから何か意味がありそうだけど」

エーディン様の言葉にロイツェは答えを出そうとはしない。こちらがその意味を理解し、見つけるしかなさそうだが……。

「まさか、オヤジたちが本物ではない、とでも……」

ヴァーリ様がぽつりと言った言葉に皆が驚くが、否定もできないような状況でもあった。
オーディン様たちが駆けつけたタイミングで発せられたロイツェの言葉。もしかしたら、今、階段の上にいるオーディン様たちは真実ではない……つまり偽者なのではないだろうか?

「待って、ヴァーリ。私たちは本物だよ。……ヘズ?」
「あ、うん……。ヴァーリ、シヴの言う通り、僕たちは偽者なんかじゃない、けど……」

シヴ様の言葉に少しはぎれの悪い返事をするヘズ様。
オーディン様、トール様もヘズ様の様子を気にしつつ、自身が本物である事を主張する。そんな中、沈黙を破ったのはヴィーザル様だった。

「兄貴はオレの事だけじゃなくて、他の皆も疑うんだ?オヤジとか……ヘズとかさ?」
「それは……」

階段を降りてきたヴィーザル様に、オーディン様だけでなくヘズ様の名前も挙げられたヴァーリ様はどう返答すべきか悩んでいるようだ。
それは問いかけられたヴァーリ様だけでなく、他の神様たちも同様であったが……。


「兄貴らしくないなー、そういう顔。それに、いつからそんなに騙されやすくなったんだよ?」

階段の上、オーディン様たちの後ろから聞こえた声。視線を上げればそこにはヴィーザル様がもうひとりいた。

「おぉ!?ヴィーザルがもうひとり来おったわい!」
「これは……どうなっている?」

オーディン様やトール様だけでなく、その場の全員が困惑する中、もうひとりのヴィーザル様が駆け出す。
そして、ヴァーリ様の目前まで近づいていたまったく同じ姿の人物を蹴り上げると、まるで幻影を倒した時のようにその姿は霧散してしまった。

「今のヴィーザルは偽者……まさか幻影、だったのか?」
『左様でございます。幻影ともお戯れになれるとは……さすが神、滑稽でございますね』

ジークフリート様の言葉に冷たく静かに微笑むロイツェに、みんなが困惑する。仲間だと思っていた人物の中に幻影がいたのだ。不安や戸惑いが生じてしまうのは自然な事だった。

「……やっぱりその気配、幻影だったんだね。僕がもっと早く違和感に気がつけばよかったんだけど……」
「気に病むな、ヘズ。少し違和感はあったが、ワシらも今、本物のヴィーザルが来るまで幻影だとは思わなかった」
「幻影って、全然見分けがつかないね。今も、どっちが本物か、ちょっとわからなかったな」
「何にせよ、本物のヴィーザルが今、ヴァーリを助けたんじゃ!さすがワシの息子じゃな!」

こちらへと合流してきたオーディン様たちによれば、どうやら途中で出会い、鍵を渡してくれたり共に戦ってくれたヴィーザル様は幻影だったようだ……。
家族であるヴァーリ様やオーディン様の目も欺き、ヘズ様の気配の察知をかいくぐる……幻影とはおそろしく本物に近い存在である事に、皆が衝撃を受けていた。

「お前が本物という事は、私は幻影のお前に助けられたという事か。たしかに普段のお前と少し様子が違うような気もしていたが……」
「オレの幻影が兄貴を、ね。でも幻影を本物って信じてたって事は、兄貴はオレがそういうヤツだって思ってたんだ?意外だなー」

ヴィーザル様の真意は本物でも幻影でもヴァーリ様には理解しかねるものだったが、この場においては本物のヴィーザル様も加勢してくれるようだ。

『さて、貴方の隣にいるその神は、誠にご本人様なのでしょうか。もしや幻影かもしれませんゆえ、ご注意を……』

不安をあおるような言葉を放つロイツェは、一行が未だにヴィーザル様の一件で困惑している中、再び追撃の構えを見せる。今の状況で攻撃されるのは連携の上でも危険だ……!
ロイツェが刃を放とうと手を振り上げると、その目前の床に煌めく大きな斧が突き刺さった。


「そんな言葉で惑わされたり、仲間を疑うようじゃまだまだだね、アンタたち!」
「あのバルディッシュにその声って……スカサハ師匠か!?」

クーフーリン様が声を上げれば、スカサハ様が部屋に姿をあらわしていた。だが、本当にスカサハ様なのかという不安は拭いきれない。

「あんた、本物のスカサハよね?あたしたちと塔の途中で合流したけど……」
「何言ってるんだ?アタシは今ここに駆けつけたところだ。アンタらとは誰ひとりこの塔では会ってないぞ?」

スカサハ様の言葉に、また幻影が紛れ込んでいた事を知る。一体誰が本物なのか、不安は広がるばかりだが……。

「みんな、その気配は幻影じゃない……。判断は難しいけど、少しコツを掴んだから、大丈夫だよ」
「まあ、さすがヘズ様ですのね!わたくし、気配だけではわかりませんので投げるしかないかと……」
「ちょっと、デアドラ!何でも投げて判断しないでほしいわ。そういえば他にも会った4人はどうだったのかしら?」
「ヌアダ様たち……だね」

途中加勢をしてくれたヌアダ様たちもあれから会ってはいない。目的も明かしてはくれなかった彼らも本物だったのか少し怪しくなる。

「安心しろ!私たちは本物だぞ!」

明るい声と共に部屋にやってきたのは、まさに噂をしていた4人……ヌアダ様、ネヴィン様、ディアン・ケヒト様、ルーグ様だった。

「あなたたちに会うまでに、僕たち自身の幻影は倒しておきましたよ。安心できるかはわかりませんけど」
「クックック……!本物と同じとはいきませんが、なかなか興味深い体験でした」
「そういう事だ。まぁ、君たちを助けたのは本当に私たちだったのか……ルーグの言葉を信じるかは君たち次第だけどね」

ヘズ様によれば、ここにいるヌアダ様たちは幻影ではなく本物のようだ。ヌアダ様の言う通り、あの時加勢してくれたのは本物だったのか幻影だったのかは、もう確認する事は叶わないが……。

『なるほど……。皆様お揃いならば、こちらも相応のおもてなしをさせていただかねばなりません……』

ロイツェの言葉と共に、目の前の空間に亀裂が生じる。そこからあらわれたのは、これまで戦い倒してきたクレプシード家の者たちだった……!

『キャハハハ!今度はスヴェイとも遊ボウヨー!』
『傷を癒すのに時間が掛かってしまったが……私たちには、今一度お前たちと剣を交える必要があるからな』
『まぁ、回復を待つ間に『リダン』の準備にまわる事はできましたがネ。今ここで、アナタたちも運命の歪みの材料に加えて差し上げましょうカ』
『……うぬらにはこれ以上『リダン』の邪魔はさせぬ』
『これだけ揃ってりゃ、俺らを倒すことくらい簡単なんじゃねぇの。情報もコソコソかぎ回ってたようだし、アンタみたいな神も重ーい腰を上げて来てるしなぁ……ゼウス様?』

姿をあらわしたクレプシード家の者たちの中で、ヘレグはゼウス様やヘルメス様を見る。だが、二人ともこの状況に動じる様子はなく、むしろどちらも笑ってみせた。

「情報収集は得意なほうだからね、ゼウスさんの頼まれ事のために飛び回ってただけだよ。まぁ、時空に関する事だったからその辺りに詳しいヤヌスも巻き込んだけどなー!」
「俺も世界の異変は目にしていたが、情報がないままで乗り込むほど無謀ではないからな。ヘルメスに調査させてからここへ来てやったというわけだ」

ゼウス様とヘルメス様の言葉を聞いたヤヌス様は、部屋の中の時計を調べながらぽつりと呟く。

「……まったく、まさかヘルメスたちに巻き込まれるとはね。でも僕もこんな時まで傍観してるだけのつもりはなかったから、今回は少し本気を出そうかな」

ヤヌス様はその言葉と共に、見つけ出した時計を自身の手で破壊したのだった。


「世界の異変……みんな色々感じ取ってここに来たみたいですが、どのような様子になっているのですか?」

ゼウス様にノイシュ様が問いかける。世界の様子がおかしい事に気付き、この蜃気楼の塔へやってきた者も多いが、どんどん状況は悪化しているようだった。

『ノイシュ様は塔の外の世界の様子が気になると……?では、我々が見せて差し上げましょう』

ロイツェはそう言うと同時に、塔の壁の亀裂へと刃を次々と投げる。突き刺さった刃は亀裂を簡単に崩していった。
そうして見えた外の景色は、蜃気楼の塔を中心として不気味な雰囲気に包まれていた。
空は淀んだ色の曇天、湿ったような風は木々や建物を大きく揺らしている。そして所々から魔物の咆哮や、魔神の足音のようなものも聞こえる。
また、時空の裂け目や歪みと思われるものも発生しているのが、塔の頂上からでも確認できる。あれの影響が大きくなれば、塔の外の人々の運命も大きく歪んでしまうかもしれない……。
まだ世界の全域には広がってはおらず、塔に来ていない神様もこの状況の拡大を食い止めていると思われるが、このまま放っておけば多くの被害が出ることになるだろう。

「なるほど……こんな事態になっていたんだな。早く塔の影響の拡大を止めなければ……!」

ヴァルキリー様が焦りの声を上げたときだった。天井からパラパラという嫌な音が聞こえる。この音は少し前、フォルトゥナ様と合流した際にも耳にした音だ……!
先程、ロイツェが塔の壁を破壊した影響だろうか、亀裂はいつの間にか天井まで伸び、その一部が剥がれ落ちようとしていた……!

「……!みんな、天井が崩れてきているわ!早くこっちへ!」
「オイフェとマクリルが魔法を使ってる間に急げ!」
「そうだぜ!みんなこの魔方陣に入ってくれよ!」

オイフェ様とマナナン・マクリル様が崩落する天井から身を守る魔法陣を素早く展開する。近くにいた者はその陣の中へと駆け込んだ。

「僕たちのいる場所からでは魔方陣の場所へ行くのは危険だね。そこの部屋の隅なら崩落に巻き込まれないだろうから急ごう!」
「そうだな!ディルムッド、グラーニアをちゃんと守って走れよ?」
「あぁ、わかっている……!」

オイフェ様たちのいる場所から離れた場所に立っていたノイシュ様やオスカー様たちは、部屋の隅の天井がまだ脆くなっていない事に気がつき、その場所まで走った。

「この程度の崩落、私のショコラガンで……」
「ネヴィン殿、さすがに危険すぎますよ。早くこっちに避難してください」
「もしどなたか怪我をされたら、私がすぐにスパスパっと治療して差し上げますよ?ククク……!」
「ディアンの腕はたしかだけど、今の状況は危ないからねぇ。ひとまず崩落がおさまってから行動しようか」
「むぅ……わかった、そうしよう!」

ネヴィン様は天井に向けてショコラガンを構えていたが、ヌアダ様たちにも説得されると、渋々了承した。
そしてルーグ様に誘導されて、ノイシュ様たちとは対角線上にある部屋の隅へと避難した。
その避難場所も崩落の被害を受けない位置である事にヌアダ様がいち早く気がつき声をかけたため、彼らの近くにいた者はそちら側へと駆けて行った。


「きゃあっ!」

みんなが避難できる場所まで走る中、短い悲鳴が聞こえる。その方向には、崩落の危険のため飛ばずに床を走っていたナビィが転倒している姿があった。
ナビィの上には崩れ落ちる天井の砕片が迫っているが、散りぢりになって避難した上に下手に動けば天井の下敷きだ。この状況では助けに行くのは困難だろう……!

「ちょっと、まずいわ!あのままじゃナビィが……!」
「僕が助けに行く!みんなはここに……」

グラーニア様の焦る声に、ノイシュ様が駆け出そうとした時だった。

「ナビィ、今行きますわ!」
「デアドラ!?危険だ、君は下がって!」
「わたくし、どうしても行かなければなりませんの!止めないでくださいませ!でぇえーいやぁ!!」

デアドラ様はノイシュ様の制止を振り切って、崩れ落ちる天井の砕片を素手で薙ぎ払いながら走る。
走りやすいようにあらかじめ引き裂いたドレスは、さらに砕片が当たった事で可愛らしい袖も装飾もボロボロになっていたが、デアドラ様は全く構わなかった。

「デ、デアドラ様!ナビィのことは気にしないで早く戻ってください!ここは危険なので……!」

ナビィはそう叫ぶと、頭上に落ちてくる天井の一部を見て思わず目をつむる。しかし、それはナビィに当たる前に砕け散った。
なんと間一髪、デアドラ様がナビィを抱きかかえて、崩落した天井を突き上げた拳で粉砕したのだ。

「ナビィ、お怪我はありませんこと?」
「だ、だいじょうぶです~!デアドラ様は怪我とかは……」
「わたくしでしたらこの通り平気ですわ!何かを投げるだけではだめなら、こうやって砕いてしまえばいいんですのね!それに、友人を守ることの大切さ……今までのノイシュや皆さんを見てわかりましたの!」

デアドラ様はそう言ってナビィを崩落の危険がなさそうな場所へそっと降ろした。相変わらず大胆ではあるが、デアドラ様は数々の危険を皆で乗り越えた事で成長したのだった。

「デアドラ様、ありがとうございます……!」
「お礼なんて言わないでくださいませ!わたくし、ナビィのことを考えずに投げてしまったりして、反省していますの。だから、今度はナビィのことも皆さんのことも全力で守って差し上げますわ!」

デアドラ様は笑顔でナビィを見ると、ボロボロに引き千切れてしまったドレスの袖から白い腕を覗かせガッツポーズとウィンクをしてみせた。
他の神様も次々と二人に駆け寄ってくると怪我などを心配した。

「デアドラもナビィも怪我はないかい?」
「まったく、相変わらずあなたの行動には驚かされるわね」
「デ、デアドラも、ナビィも……無事で、よかった……!」

ノイシュ様やエーディン様がデアドラ様とナビィの様子を見て安堵するが、その間を割るようにデアドラ様に声をかけた神様がひとりいた。

「デアドラ、なかなかかっこよかったじゃないか!……むぅ、私もナビィをかっこよく助けたかったが、君の働きでナビィは無事だったからな!さすがだぞ!」
「ありがとうございます!ネヴィン様には遠く及びませんが、ナビィを助けられてよかったですわ!」

笑顔で元気よく言ったデアドラ様は一呼吸おくと、凛とした表情でクレプシード家のほうへと向き直る。

「さあ、あなた方、今度こそ覚悟はよろしくて?」
『おやおや……豪腕なお嬢さんが少しばかりお仲間を助ける事を学んだところで、一体私どもに何ができますかな……?』

「ここには僕たちもいる。誰しもひとりで戦っているわけじゃない!」

ノイシュ様が素早く駆け出すと、ロイツェに向かって剣技を繰り出す。それを見たクレプシード家も動き出すが……。

「ノイシュの邪魔はさせませんことよ!ぬぅん!!」
『……!うぬもやりおるな』

デアドラ様はノイシュ様のもとへ駆け寄ると、コメトンの繰り出した一撃を片手で受け止め、反撃に出る。武術の心得のないデアドラ様だが、コメトンをうならせる一撃を放った。

『まったく、貴方がたは往生際の悪いお客人だ……。旦那様の邪魔はこれ以上させませんゆえ……一気に消して差し上げましょう……!』
「そうはさせない!みんな、いこう!これが……私たちの最後の戦いだ!」

ヴァルキリー様の掛け声で他の神様も駆け出す。
こうしてこの塔にいた全員が集まり、一致団結したところで『リダン』を阻止するための最終決戦が改めて開幕となったのだった……!